50%の過失相殺を主張されるも,5%に抑えることに成功
静岡地方裁判所管轄内
■遷延性意識障害(判例041)
■後遺障害等級:1級 確定年:2018年 和解
■静岡地方裁判所管轄内
被害者の状況
①21歳・男性(大学生)
男性 大学生(事故時21歳,症状固定時23歳)
直進バイク(被害者)と右折自動車(加害者)の事故
遷延性1級
認められた主な損害費目
治療費 |
約1130万円 |
---|---|
傷害慰謝料 |
約400万円 |
逸失利益 |
約1億1,310万円 |
将来介護料 |
約1億1,140万円 |
後遺障害慰謝料 |
2,800万円 |
将来雑費 |
450万円 |
介護機器類 |
約880万円 |
介護住宅費用 |
約1,060万円 |
近親者慰謝料 |
600万円 |
その他 |
約860万円 |
損害額 |
約3億0,630万円 |
過失相殺5%控除 |
-約1,530万円 |
任意保険金控除 |
-約1,350万円 |
自賠責保険金控除 |
-4,000万円 |
調整金 |
約7,250万円 |
最終金額 |
約3億1,000万円 |
*1)調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当
*2)自賠責保険金4,000万円を加えて,総額約3億5,000万円を獲得した。
詳細
加害者の主張
①本件は信号の変わり目における事故であり,被害者は黄色信号で直進してきた。また,右折車である加害車両が既に右折を開始していたにも関わらず,その側面に遅れて突っ込んできた点も加味すれば,被害者にも50%の過失が認められる。
②被害者の介護料は,障害者総合支援法による公的給付によって賄われ,被害者には実際の支出(=損害)がほとんど生じていない。よって,近親者(母)による介護分だけが主に評価されれば足りる。
裁判所の判断
①被害者の信号が黄色信号表示であったとしても,黄色信号表示後に停止線手前で安全に停止することができなかったと認められる(青信号と同視できる。)。これに対し,加害者には早回り右折等の過失が認められるから,被害者の過失は5%にとどまる。
②被害者の介護には,2,3時間おきの体位交換や排泄管理が不可欠であるほか,入浴の歳には複数名の介助が必要であるから,その介護負担は重い。そこで,母67歳まで日額1万6000円,母67歳以降日額2万円の将来介護料を認める。
【当事務所のコメント/ポイント】
①過失相殺について
本件では,加害者の供述が不自然に変遷しており,かつ,その供述内容自体も不合理なものであったから,およそ信用に足るものではなかった。例えば,右折車である加害者は,「停止線の手前から既に時速15㎞まで減速してゆっくりと右折した」かの如く供述したかと思えば,他方で,「急いでいたので信号が変わる前に右折してしまおうと思いショートカットした」とも供述し,支離滅裂な供述に終始していた。そこで,そのような加害者の供述内容の荒唐無稽さを強調するため,当事務所では,本件事故現場を加害者の供述に沿って実際に走行したビデオ映像を提出し,如何に不自然な走行態様であるかを実証した。
その結果,裁判所は,そのような加害者供述の信用性を完全に否定し,また,加害者供述を前提とした保険会社側の50%という過失相殺も排斥,僅か5%の過失相殺に抑えることに成功した。
なお,上記で記載したとおり,黄色信号で進入した車両であっても,停止線手前で安全に停止できないタイミングであった場合,適法に交差点に進入することができるから,この場合は青信号と同視される。
②将来介護料
本件では,被害者(息子)のことを思う母が,できる限り自らの手で介護をしたいという思いを抱え,実際に多くの介護を主体的に担いながら,職業介護も併用していた。
そのような事情の中で,保険会社側は,母による介護を軽視し,「オムツ交換,移乗,体位交換,口腔ケアなど,いずれも数秒,数分で終わるものであり,介護時間はそう長くない」など,介護内容を矮小化し,介護の大変さを全くもって理解していない理不尽な主張を行った。
そこで,当事務所では,24時間の介護スケジュールを明らかにし,母が如何に介護のために時間的拘束を受けているか,各介護内容,回数,要する時間とともに整理し,24時間に渡って断続的に被害者に付き添わなければならない現状を正確に裁判所に伝えた。その際,24時間のタイムスケジュール,あるいは週間スケジュールを表として提出するなど,24時間介護の実態をできるだけ可視化し,目で見て裁判所が理解しやすいような工夫をしている。
その結果,母67歳まで日額1万6000円,母67歳以降日額2万円の将来介護料を認められた。近親者が介護の中心となっているケースでは,日額8000円~1万円という不当に低額な認定を受けている裁判例も全くないわけではないところ,介護負担の重さを立証することによって,十二分な評価を受けることができた。
遷延性意識障害の被害者の方の場合,文字通り24時間の絶え間ない介護が必要なケースが多く,そのような24時間介護の実態を如何にわかりやすく主張するかという点が非常に重要である。そうすることで,介護の一場面一場面を切り取って介護の時間を短くみせようとする保険会社側の主張を排斥することが可能である。