人身傷害保険金500万円のみの解決予定から,当事務所の受任によって総額約2800万円を獲得
さいたま地方裁判所管轄内
■上下肢切断・機能障害他(判例044)
■後遺障害等級:併合11級 確定年:2018年 和解
■さいたま地方裁判所管轄内
被害者の状況
①46歳・男性(会社員)
男性 会社員 受傷時46歳 症状固定時48歳
被害者が、バイクで交差点を直進中,対向右折自転車を発見して自ら転倒した事故
鎖骨変形12級,肩関節可動域12級,など併合11級
認められた主な損害費目
休業損害 |
約20万円 |
---|---|
逸失利益 |
約2,165万円 |
傷害慰謝料 |
約125万円 |
後遺障害慰謝料 |
420万円 |
その他 |
約20万円 |
損害額 |
約2,750万円 |
過失70%控除 |
-1,820万円 |
*1)調整金 |
約175万円 |
最終金額 |
1,000万円 |
*1)調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当
*2)人身傷害保険金1,820万円を加えて,総額約2,820万円を獲得した。
詳細
加害者の主張
① 被害者は、直進するにも関わらず、その進路に反する右折合図を出しながらセンターライン寄りを走行していた。加害者は、その虚偽の右折合図によって被害車両が右折するものと誤信し、自らも右折を開始したに過ぎない。ところが,右折合図に反して被害者がそのままの速度で直進したため,加害者と進路が競合し,自ら勝手に転倒しただけであり,被害者の一方的な過失によって発生した事故という他ない。加害者に賠償責任はない。
② 鎖骨変形12級は労働能力に影響を与えるものではないから,11級相当20%の労働能力喪失率を認めることはできない。
③ 原告の事故前年の年収が約1000万円であったとしても,60歳で定年を迎えることが想定されるから,67歳まで労働能力喪失期間を認めることは相当でない。
裁判所の判断
① 誤った右折合図を出したまま走行していた被害者の側に大きな落ち度があったことは否定できないが,漫然と右折を継続した加害者側にも落ち度があり,被害者の過失は70%にとどまる。
②建設関連事業に従事する被害者にとって,鎖骨変形による痛みや,肩関節可動域制限の就労への影響は大きく,等級(併合11級)どおりの労働能力喪失率20%を認める。
③確かに,67歳まで事故前年年収(約1000万円)を維持できるとは認められない。しかし、被害者の会社での役職や評価などに鑑みれば,62歳までは約1000万円,残り5年間については約550万円(男子学歴計全年齢平均賃金)を基礎収入として逸失利益を認める。
【当事務所のコメント/ポイント】
①裁判に至った経緯
本件は,加害者側の保険会社が賠償責任自体を否定し,示談段階で一切の支払いに応じない姿勢を示していた。他方,被害者加入の自動車保険に付帯されていた人身傷害保険は,過失割合に関わらず保険金を受け取ることができるから,当事務所の受任前,約500万円の人身傷害保険金支払いの提案が既になされていた。
被害者自身,事故に責任を感じていたこともあり,約500万円だけでもやむを得ないという思いを抱えつつ,当事務所に相談に訪れた。
人身傷害保険は,訴訟に移行した場合,裁判所が認定した損害額のうち,被害者の過失に相当する部分(=過失相殺された金額)を全額補填する性質を有している。そのため,当事務所は,受任後,加害者相手に訴訟を提起し,加害者にも30%(1000万円)の責任があることを認めさせると同時に,被害者の過失70%分に相当する約1800万円の人身傷害保険金を受領した。
これにより,本件では,当初の500万円の解決予定から,合計2800万円を取得できたことにより,被害者の方に大変喜んでいただける結果となった。
このように,被害者自身の自動車保険に人身傷害保険が付帯されている場合,加害者との解決も裁判とすることによって,人身傷害保険金の算定も裁判所で認定された損害額に基づき行われるというメリットがある。
②過失相殺
上記のとおり,本件は,被害者側で誤った右折合図を出し続けたまま直進走行したことで自ら転倒した事故であった(相手方との接触すらなかった)。そのため,加害者側では賠償責任すら認めていなかった。
バイクは,右左折した後にウインカーを手動で戻す必要があるため(車はハンドルを戻すと自動で合図も消える。),右折合図の消し忘れという現象はバイク特有のものである。確かに,間違った右折合図によって相手方を混乱させた点は否定できないが,その速度や挙動からすれば直進してくることを十分に予見することができた。そのような加害者側の落ち度を立証した結果,加害者にも30%の責任が認められた。
③鎖骨変形の労働能力喪失率
被害者の後遺障害は,鎖骨変形12級と肩関節可動域制限12級による併合11級であった。
このうち,鎖骨変形については,単に鎖骨が変形しているだけであるから,労働能力に影響しないこともあり,保険会社側が労働能力喪失を否定してくる後遺障害である。本件でも,「労働能力喪失率に影響があるのは肩関節可動域12級だけであるから,12級14%が相当である」と主張された。
しかし,本件被害者の場合,電柱を建てるという重労働に携わっていたため,鎖骨の変形によって生じている鎖骨部の不安定性が労働能力に与える影響は大きく,重いものを持てないなどの支障が生じていた。これは,肩関節可動域12級だけでは説明ができない支障であり,2つの後遺障害がそれぞれ労働能力喪失をもたらしていることを立証した結果,併合11級=20%の労働能力喪失率が認められた。
鎖骨変形など,一般的に労働能力喪失率が否定されることがある後遺障害であっても,就労への影響があるのであれば,それを的確に主張立証することで等級どおりの労働能力喪失率を獲得することが可能である。