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下肢切断5級と高次脳5級の併合2級事案

さいたま地方裁判所管轄内

■高次脳機能障害(判例195)
■後遺障害等級:5級 併合2級 確定年:2019年 和解
■さいたま地方裁判所管轄内

被害者の状況

①64歳・男性(会社員)
男性 会社員(事故時64歳、症状固定時66歳)
加害者のセンターオーバーによって発生した事故
下肢切断5級,高次脳機能障害5級による併合2級

認められた主な損害費目

傷害慰謝料

350万円

休業損害

約680万円

逸失利益

約3,170万円

将来介護料

約1,820万円

後遺障害慰謝料

2,400万円

住宅改修費用

約400万円

福祉器具購入費用

約320万円

その他

約235万円

損害額

約9,375万円

任意保険金控除

-約1,080万円

自賠責保険金控除

-2,590万円

*1)調整金

約1,600万円

最終金額

約7,300万円

*1)調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当
*2)自賠責保険金約2,590万円を加えて,総額約9,890万円を獲得した。

詳細

加害者の主張

被害者の高次脳機能障害は5級であり,食事や排泄・排尿,歩行などの動作は全て自立しており,介護が必要な状況にあるとは到底認められない。したがって、将来介護料が認められるべきではない。
下肢切断の影響についても,義足を装着すれば屋内・屋外の歩行がいずれも可能となっているから,介護の必要性を認める事情とはならない。

裁判所の判断

①将来介護料

高次脳機能障害5級による注意力低下と自発性低下,及び下肢切断による身体機能の不安定さが相まって,日常の様々な場面で随時声掛けや看視を必要としているから,日額3,000円の近親者介護料を認める。
また,下肢切断について,下肢の筋力が低下すればより一層介護負担が重くなることが想定され,それを防止するためには生涯に渡る通院リハビリ(筋力トレーニング)が必要である。よって,そのためのリハビリ費用として,500万円の将来介護料を別途認める。

②逸失利益

労働能力喪失率については,積極的に争われることなく,100%とすることが認められた。

【当事務所のコメント/ポイント】

①高次脳機能障害と下肢切断

本件は介護の必要性が主要な争点となったが,重要だったのは,高次脳機能障害5級と下肢切断5級が相互に影響し合って,介護を必要としている点であった。
この点,加害者側は,高次脳機能障害と下肢切断をそれぞれ切り離して介護の必要性がないと主張した。
しかし,高次脳機能障害によってただでさえ注意力が低下しているにも関わらず,下肢切断によって転倒の危険が高く,通常の高次脳機能障害5級の被害者と比較すれば,より一層日常に潜む危険が多くなり,見守りを必要としていた。そのため,当事務所では,現在の介護状況をご家族から詳細に聞き取り、相互の影響を丁寧に立証した結果,日額3,000円の近親者介護料が認定され,下肢切断部分に対しても将来のリハビリ費用として500万円を獲得することができた。
本件のように,高次脳機能障害の他に後遺障害が存在する場合(例えば,複視,難聴など目・耳の障害などが典型例),その他の後遺障害が高次脳機能障害の諸症状に与える影響が重要であり,この点を指摘することで,単独の高次脳機能障害と比較したとき,介護負担の重さを立証することができる

②自宅の中と外における自発性低下

自宅での本件被害者は,自発性が著しく低下し,食事,入浴,歩行,何をするにも家族の声掛けがなければ動かず,日々家族による声掛け,促しが必要であった。
これに対し,外での被害者はむしろ活発で,デイサービスでも他の利用者と積極的にコミュニケーションを取ることができていた。この点がデイサービスの利用記録に記載されていたため,保険会社からは,「家庭内で自発性が低下しているという家族の報告は信用できない(虚偽である)」と非難された。
しかし,この保険会社の指摘は誤りであり,高次脳機能障害の場合,第三者と接する外では「心の防波堤」(=緊張感)を引き上げているため,社会性が発揮されることがあっても,家族と接する家庭内では「心の防波堤」が下がるため,甘え,易努性が強く出たり,自発性が低下したり,ということが往々にして起こり得る。このような事象は医学的にも認められているから,参考となる医学文献を裁判所に提出するとともに,主治医にも家庭内と外との違いについて意見書を作成して貰い,家庭内で顕著に自発性が低下していることを立証した事案であった。
この点も日額3,000円の将来介護料の評価に結びついた。