障害者総合支援法の公的給付について既経過分も含め損益相殺を否定
大阪地方裁判所管轄内
■高次脳機能障害(判例193)
■後遺障害等級:1級 確定年:2019年 和解
■大阪地方裁判所管轄内
被害者の状況
①20歳・男性(会社員)
男性 会社員(事故時20歳,症状固定時25歳)
車道を走行していた自転車(被害者)と同一方向に進行する自動車(加害者)の事故
高次脳1級
認められた主な損害費目
治療費 |
約560万円 |
---|---|
傷害慰謝料 |
約400万円 |
休業損害 |
約340万円 |
逸失利益 |
約8,050万円 |
将来介護料 |
約1億2,200万円 |
後遺障害慰謝料 |
2,800万円 |
福祉器具購入費用 |
約335万円 |
介護雑費 |
約130万円 |
成年後見費用 |
約650万円 |
近親者慰謝料 |
300万円 |
その他 |
約780万円 |
損害額 |
約2億6,550万円 |
過失相殺50%控除 |
約1億3,270万円 |
任意保険金控除 |
-約480万円 |
自賠責保険金控除 |
-4,000万円 |
*1)調整金 |
約8,000万円 |
最終金額 |
約1億6,750万円 |
*1)調整金とは,弁護士費用,遅延損害金相当
*2)自賠責保険金約4,000万円を加えて,総額約2億0,750万円を獲得した。
詳細
加害者の主張
①被害者は,6車線ある幹線道路の第三車両通行帯を自転車で走行していたばかりか,第四車両通行帯へと車線変更を行い,第四車両通行帯を走行してきた加害車両に衝突したものである。飲酒の上,このような極めて危険な走行をした被害者の過失は80%を下らない。
②被害者の介護料は,障害者総合支援法による公的給付によってそのほとんどが賄われており,被害者には実際の支出(=損害)がほとんど生じていない。
裁判所の判断
①被害者の走行態様が一定程度危険であったことは否定できないが,加害者としてもその動静を十分に注視して運転すべき義務があったから,被害者の過失を50%とする。
②障害者総合支援法による公的給付は,既経過分及び将来分を問わず,損害から控除されない。
③将来介護料は,日額1万8000円とする。
【当事務所のコメント/ポイント】
①障害者総合支援法による公的給付の控除の可否(将来分)
本件被害者の場合,月額150万円に及ぶ潤沢な介護サービスを利用していが,障害者総合支援法による公的給付によってその介護料の大部分が賄われていたため,実際には月額1万円にも満たない額しか自己負担がなかった。
そのため,保険会社から,将来に渡って月額1万円の将来介護料を認めれば足りるとの主張がなされた。
しかし,将来支給される公的給付については,これを損害から控除してはならないことが最高裁判所の判決によって確定しているから,このような保険会社の主張がなされた場合,これは明確に誤りである。障害者総合支援法に限らず,健康保険,介護保険なども同様であり,将来支給されるかどうか不確定なものについて,これを損害から控除することは絶対に許されない。
②障害者総合支援法による公的給付の控除の可否(既経過分)
問題は,解決時(和解時,判決時)までに既に支給されている公的給付分を控除する必要があるかどうかという点である。
本件では,下記に述べるとおり,結果的に日額1万8000円(月額約55万円)の将来介護料が認められたが,症状固定日から和解まで7年以上が経過していたから,仮に和解までに既に受領している公的給付分を控除するとした場合,約4500万円(日額1万8000円×365日×7年)という莫大な金額が控除されてしまう。要するに,既経過分の公的給付を控除するか否かによって,依頼者の受け取ることができる額に約4500万円もの差が出る重要な問題であった。
結論として,障害者総合支援法は,障害者の福利増進を図ることをその目的としており,また,賠償義務者に対する代位や支給調整の規定がないことから,「損害賠償金の一部と評価されず」,既に受領している分であろうと,給付分が損害から控除されることはない(労災保険給付の特別支給金が控除されないことと同じような趣旨である。)。
この点,被害者が障害者総合支援法の支給を受けている場合に,給付を受けている期間について自己負担分のみを請求するなど,被害者側の誤った低額な請求がそのまま裁判所の判決となってしまっている例も散見されるため,障害者総合支援法の適用を受けている被害者の方は十分な注意が必要である。
③介護負担の重さ
本件は,高次脳機能障害1級の方の事案であった。遷延性意識障害1級(寝たきり)の方と比較したとき,高次脳機能障害1級の方が介護負担が軽いという見られ方をすることがあるが決してそうようなことはない。本件でも,易努性が顕著であったため,食事中もイライラして暴れたり,場合によってはベッドから転落することもあったりするなど,かえって問題行動が多発し,四六時中目が離せないという点では,寝たきりの方よりも介護負担が重いという実態があった。これらを立証することで,日額1万8000円の将来介護料を獲得した。
このような高次脳機能障害1級事案の場合,日々起きる問題行動に伴う介護負担の重さを立証することが極めて大切である。