加害者が時速129㎞で走行していた事案につき,一時停止規制がある被害者の過失を否定
甲府地方裁判所管轄内
■死亡事案(判例032)
■確定年:2019年 判決
■甲府地方裁判所管轄内
被害者の状況
①43歳,15歳・女性(主婦,中学生)
女性 主婦 死亡時43歳
男性 中学生 死亡時15歳
直進自動車同士の出会い頭事故(被害者側に一時停止あり)によって,運転していた母親と同乗していた子の2名が死亡した
死亡
認められた主な損害費目
逸失利益(被害者①) |
約3,630万円 |
---|---|
葬儀費用(被害者①) |
約150万円 |
死亡慰謝料(被害者①本人分) |
2,600万円 |
逸失利益(被害者②) |
約4,310万円 |
葬儀費用(被害者②) |
約150万円 |
死亡慰謝料(被害者②本人分) |
2,600万円 |
近親者慰謝料 |
900万円 |
損害額 |
約1億4,345万円 |
弁護士費用 |
約1,430万円 |
遅延損害金 |
約2,140万円 |
最終金額 |
約1億7,915万円 |
詳細
加害者の主張
①国道を走行していた加害者に対し,被害者の側に一時停止規制があったのであるから,加害者の速度超過を考慮しても,被害者側に40%の過失が認められる。
②飲酒運転は,刑事裁判で認定されておらず,そのような事実はない。
③被害者の慰謝料請求は高額に過ぎる。
裁判所の判断
① 法定制限速度が時速50㎞の道路を時速129㎞という異常な高速度で走行してくる車両があることまで予見して運転すべき義務はない。そうすると,一時停止標識に従って一時停止をした被害者が,その時点で100m以上先に存在した加害車両を確認して,先に交差点を安全に通過できると判断したことは相当である。被害者は,自動車の運転手として尽くすべき注意義務を全て尽くしており,本件事故は加害者の特異な高速度によって発生したものというべく,被害者の側に過失を観念することはできない。
②事故直前まで加害者とともに居酒屋で飲酒していた第三者(加害者の友人),及び居酒屋の店長の供述はこれを信用することができるから,加害者は飲酒運転をしたものと認められる。
③死亡慰謝料について,飲酒運転,その飲酒運転を否定する虚偽の弁解,時速129㎞という異常な高速危険運転という本件に特異な事情を考慮し,基準額各2,500万円から増額し,各3,050万円(総額6,100万円)を認める。
【当事務所のコメント/ポイント】
①過失割合
本件は,信号機のない交差点における出会い頭事故であるが,加害者側が広い国道であり,被害者側が一時停止規制のある劣後車両であった。そのため,通常であれば,被害者側の過失がゼロとなることはまず考えられない事故態様であった。
しかしながら,本件被害者は,約3秒間に渡って一時停止し左右の安全を確認した上で発進していたが,その時点で加害車両は未だ100m以上先に存在していた。100m以上の距離があれば,誰しも安全だと判断して発進することであろう。ところが,予期に反して加害車両が時速129㎞という異常な高速度で迫っていたため,わずか2~3秒足らずで交差点に達し,本件事故が発生した。
このような特殊な事故態様について,当事務所では,被害者が尽くすべき注意義務を全て尽くしていたことを丁寧に立証した結果,被害者に全く落ち度がなかったこと(過失ゼロ)が認められた。
本件は,お母さんが塾に子供を迎えに行った帰り道に事故に遭い,母子の命が奪われた悲惨な事故であった。ご遺族の怒り,悲しみは想像を絶するほど大きく,過失ゼロという結果だけを求めて,山梨県からわざわざ当事務所に依頼に見えられた方であった。当事務所としてもその期待に応えるべく,裁判では和解の話し合いに一切応じることなく,判決という公の判断をもって過失ゼロという正しい結果を勝ち取った事案であった。
②刑事では立件されなかった飲酒運転を認定
刑事の手続上,加害者は飲酒運転をしていたにも関わらず,被害者の過失が大きいという警察・検察の思い込みによる調査不十分の怠慢があり,飲酒運転が見過ごされ立件されなかった。当然,民事裁判の中でも,加害者は飲酒運転の事実を否定した。
被害者はこの点でも非常に強い憤りと無念さを感じており,飲酒運転の立証も当初からの強い希望であった。当事務所は,事故直前に一緒に飲酒していた加害者の友人や,居酒屋の店長に実際に会って話を聞き,その証言内容が信用できること,加害者の弁解の不自然さを的確に指摘した。その結果,刑事裁判では無視されていた飲酒運転の事実が民事判決で明確に認められた。下記のとおり,飲酒運転は死亡慰謝料の増額事由となるから,その立証は賠償という観点からも非常に意義があった。
刑事裁判の判断内容に納得できない場合,決して泣き寝入りせず,是非相談をして欲しい。
③死亡慰謝料
飲酒運転,異常な高速危険運転という本件のような悪質な事故の場合,死亡慰謝料の増額が認められる。本件でも,各2500万円が基準となる慰謝料であるところ,500万円以上の増額である各3050万円という高額な慰謝料を勝ち取った。