個人事業主について,実収入に応じた十分な基礎収入を認定させた事例
東京地方裁判所管轄内
■死亡事案(判例027)
■確定年:2018年 判決
■東京地方裁判所管轄内
被害者の状況
①33歳・男性(個人事業主・作家)
男性 個人事業主・作家(事故時33歳)
バイクで直進中,左方からの右折車に衝突された
死亡
認められた主な損害費目
逸失利益 |
約3,390万円 |
---|---|
葬儀費用 |
約150万円 |
死亡慰謝料 |
2,500万円 |
その他 |
約100万円 |
損害額 |
約6,145万円 |
過失相殺10%控除 |
-約615万円 |
既払金控除 |
-約30万円 |
弁護士費用 |
約550万円 |
遅延損害金 |
約1,020万円 |
最終金額 |
約7,070万円 |
*)人身傷害保険金約600万円を加えて,総額約7,670万円を獲得した。
詳細
加害者の主張
① 加害者は,一時停止の上,十分な安全確認をして右折を行った。これに対して,被害者は,左右の見通しのきかない交差点に徐行もせずに進入してきたのであるから,その過失は25%とするのが相当である。
② 仮に被害者が約450万円の収入を得ていたとしても,個人事業主である被害者の場合,そのうちの50%~60%は経費に当たるものであるから,基礎収入は約200万円程度とすべきである。
裁判所の判断
① 加害者が早回り右折をしていたこと,本件交差点が丁字路であり交差路からの加害者側により重い注意義務が課せられていたこと,被害者が減速していたことなどを考慮すれば,被害者の過失は10%にとどまる。
② 被害者の就労形態によれば,被害者の経費は決して多いものとは言えず,経費率を8%ととし,約420万円の基礎収入を認める。
当事務所のコメント/ポイント
本件被害者は,作家として活動している個人事業主であったため,一般的なサラリーマンと比較すると,その収入が極めて不透明であり,収入立証資料も十分とは言えなかった。そのため,加害者からは,逸失利益の基礎収入が激しく争われた。しかし,当事務所では,被害者を雇っていた作家の先生に実際に会い,その協力を取り付けた上で,作家業界の働き方や収入の入り方などについて,裁判官に十分に理解させることに成功した。その結果,約420万円という十分な基礎収入を認定させることができた。
被害者の収入が不透明なこの種の事案では,就労していた現地にも足を運び,あるいは,被害者の生活状況を明らかにすること(支出面から収入を割り出す作業)により,どこまでその証明の程度を高められるかが非常に重要になる。確定申告外の収入がある方や,自営業で収入が不透明な方であっても,諦めずに是非相談してほしい。